現代のようにベッドで眠るというライフスタイルが日本で登場したのは、明治から大正に向かう頃と言われています。現在日本で一般的に使われているベッドは、基本的にはこの西洋式を踏襲しています。しかし、日本の文化・風土に合ったベッドのカタチがあるのではないかとずっと考えていました。そうしてたどり着いたのがこの「低く、広い」すのこベッドです。
日頃から在宅ワークが多い私は、朝、昼、夕と、家の中で場所を転々と移動しながら仕事をしています。そんな「在宅ノマドワーカー」にとって、ENGAWA bedのサイドフレームは大切なワークスペースの一つ。低い座が新鮮で、集中力が戻ってきます。もちろん、本を読んだり、リラックスの場所として、ソファのような使い方もしています。
その佇まいにおいても、家の中のくつろげる場所という意味でも、まさに現代の「縁側」と言うことができるかもしれません。
この開発ノートでは、開発プロセスでの気付きや、デザインの裏側の意図を記録しておこうと思います。
肌なじみがよいロースタイル
日本では畳の文化、床座のスタイルです。畳の上に直接布団を敷いて就寝してきました。そのためか高さが低いベッドの方が肌なじみが良い気がしています。感度が高いライフスタイルホテルなどでロースタイルベッドをよく目にするのもそのためでしょうか。
一方で、自宅用に市販のローベッドを探してみても、なかなか思い通りのものが見つけられませんでした。ベッドを部屋のインテリアとしてまとめ上げるような、スッとラインが通ったベッドフレームを作ろうと思いました。
寝心地も、居心地も、いいベッド
都心のマンションは家賃が高いこともあって、わたしはこれまで一貫して「小さな部屋」に住んできました。
大学進学と同時にはじめたひとり暮らしを始めたお部屋は、6畳の洋室にこじんまりとしたキッチンが付いた、典型的な1Kの間取り。その後何度か引っ越しを経た今でも、35平米の賃貸マンションに夫婦ふたり暮らしです。
当時からインテリアが好きだった私は、家具を置いたらすぐに一杯になってしまうスペースを相手に、狭くてもすっきり心地よい空間にするにはどうしたらよいか、ありとあらゆる方法を試してきました。
そうして20年(年を取ったもんだ!)の約試行錯誤を経た今、小さな部屋でもインテリアを楽しむコツをひとつ挙げるとすれば「兼用の推進」を真っ先に推します。ひとつで二役、三役と、多用途に使える道具を選ぶことで、物を減らすことができるからです。
そして、最もスペースを取る家具と言ってもいいベッドをマルチユース化するのが、このENGAWA bedです。そのフレームは、複数の役割を担うことができる、まさにベッドとサイドテーブルとソファをひとつにしたプロダクトと言うことができます。狭い部屋に住んでいる方にこそ使ってほしいと思います。

左右非対称
さっそくCADに向かい、思い描いたイメージを形に落としていきます。そして、ホームセンターで入手できる杉の無垢材を使ってプロトタイプを作りました。これを実際に自宅で使ってみて、使い心地を検証しました。ここでいくつか大きな気付きを得られました。
まずは壁付対応。当初のデザインだと、マットレスの側面を壁付けして置きたい場合、すのこが見えてしまう点が気になっていました。特に私が住んできたようなコンパクトな部屋だとそういう置き方をするケースが多いはず。
単純にフレームの幅を内側に広げると解決はできますが、すのこエリアが小さくなり、マットレスの通気を妨げてしまいますし、材料コストも上がります。
そこで、「上下対称・左右非対称」のカタチで解決しました。(逆側に寄せたい場合はフレームを180度回転)

サイズ選びは余白選び
もう一つ気になったのは、「余白スペースに座る」を実現しようとすると、フレーム幅が30cm近く必要となり、ベッドがかなり大型化してしまうこと。
そこで、ご自宅のスペース事情に応じて、余白の大きさを選べるようにサイズ展開を設計しました。

例えばダブルサイズのマットレスを使う場合、
座れるほどのたっぷりの余白が欲しい場合は「w1680」を、ほどほどの余白で良い場合は「w1480」を選ぶ、といった具合に、同じマットレスサイズでも、余白の大きさを選ぶことができます。
ちなみに、このサイズの呼び名は、通常の、シングル、ダブルと言った呼び方ではなく、ベッドフレームの外寸幅に基づいた表記にしました。マットレスに合わせてフレームサイズを選ぶ、のではなく、ほしい余白からフレームサイズを選ぶ、という考え方をして欲しかったためです。

選べる3つの余白スタイル
以上のブラッシュアップを経て、主に3種類の余白スタイルを選べるベッドフレームとなりました。

A. 両サイドほどほど余白
ベッドの両サイドにそれぞれ14cm幅の余白を作るスタイル。単行本やめがねを置くことができます。
B. 片側のみたっぷり余白
スタイルAのマットレスを片側に寄せ、片側のみに28cm幅の余白を作るスタイル。腰掛けたり、照明を置くことができます。マットレスを端に寄せてもすのこが見えない仕様だからこそできるスタイルです。
C. 両サイドたっぷり余白
ベッドの両サイドに30cmと18cm幅の余白を作るスタイルです。(両サイドで幅が異なります)
具体的に各スタイルを作るENGAWA bedサイズとマットレスサイズの組み合わせ対応表と、それぞれのサイズ感イメージは下記をご参照ください。
ちなみに、1つのベッドフレームで、3サイズのマットレスサイズに対応しているので、もし、購入後にマットレスのサイズを大きく、あるいは小さくしても、対応可能です。

美しさの追求
最後の最後まで時間を掛けたのが、樹種と仕上げの検討。nuffが理想とする、品位があり、ニュートラルで落ち着いた世界観を体現すべく、サンプルを作っては確認するという作業を何度も繰り返し、さらには工場で使う塗装に道具や塗り方にまで立ち入って検討し、やっと納得できる仕上がりに到達できました。

トップフレーム部材上面には北海道産ナラの突板、側面には同じくナラの無垢、脚部材は北海道産ニレの無垢材を使う仕様です。無垢での検討も行いましたが、価格を数分の1に抑えることができ、かつ、見た目についても、細部の処理をコントロールすることで違和感のないレベルまで高められたと思っています。
塗装はオリジナルで調色した自然オイル(ナチュラルホワイトと名付ました)で仕上げています。通常オークをクリアオイルで仕上げると黄色味を帯びた濡れ色になりますが、その変化をできるだけ抑えた、白木を思わせるやや明るいトーンのナチュラルカラーで、力強く繊細なナラの柾目を引き立て品位を感じます。
その質感の高さゆえに、モルタルの床の無機質なモダンな空間にも、ダークトーンの古材を使用した古民家のような空間にも素材感で負けることなく調和します。なお、オイル仕上げのため色は経年変化で徐々に深くなっていきます。


家具も地産地消
今回は北海道産の木材を使って北海道の工場で制作するのですが、木材の産地と工場と使用場所が近い、ということは、木材の輸送時のCO2排出を抑えることができるし、海外の安い労働力を使うよりも、微力ではありますが、日本のモノづくりの応援にもなります。


こういった、どこで誰がどんな材料を使って作られているのかといった、あまり表には出てこないところに、使う人にとってはもちろん、作る人にも地球環境にも優しいモノづくりを目指す想いが表れています。
さらに、「木材の産地と工場と使用場所が近い」ことは商品の価格を抑えることにも繋がります。
木材を年間でまとまった量を契約しているということもあり、他の工場で作るよりも安価になるためです。
もちろんこの製品価格を抑えることができたのは、他にも、作りやすさを考えて、寸法を揃えたり等、地道な設計努力を重ねた結果でもあります。
思い返すと、プロトタイプを作ってから商品化まで3年掛かりました。時間を掛けた分納得のいく品質まで到達できました。ENGAWA bedを使うことによって暮らしに対する感性が豊かなり、自分の部屋がもっと好きになる、そんな体験を多くの人にもしてほしいと思います。
(撮影協力:SIDEROLL FURNITURE)