
nuff(ナフ)は、暮らしの風景を美しく整える多目的トレー「ZA tray」を発表しました。構想3年。ようやく実現に至ったそのプロセスを振り返ります。
暮らしの風景を美しく整える
「少ないものですっきり暮らす」と言うと「ものを減らすこと」に焦点がいきがちですが、「ものの出し方をコントロールすること」も同じくらい大切だと感じています。
全てを引き出しやクローゼットの中に納めてしまえば、確かにすっきり見えるけれど、使うたびに扉を開く一手間が増えてしまいます。
旅館やホテル、カフェ。気持ちいいなと感じる空間では、決してものはゼロではなく、点数を絞って表に出されています。お茶の道具、コーヒーミル、畳んだタオル。よく使うものだけをあえて出して、それでも「出しっぱなし感」がない。まるで飾っているかのように整然で、それでいて手に取りやすく、戻しやすい。
目指したのは、暮らしの風景を美しく整えること。そのために、手に取る頻度が高いものは表に出しながら、程よく隠して、インテリアとして調和させていく。日用品とインテリアをつなぎ、それ自体も暮らしの風景を形作るアクセントピースになる器。そういう道具がずっとほしいなと考えていました。
お盆以上、箱未満
僕がトレーに着目した理由は2つ。
ひとつは、ものの帰る場所の目印になるから。
表に出しておくなら、定位置を決めて、使ったら戻す。この習慣がなければ、ものは少しずつ散っていきます。トレーは「ここに帰る」を示してくれます。
もうひとつは、ものにまとまりをつくれるから。
グラフィックのレイアウトでは、個々のエレメントを塊に見せることで、見やすさを確保します。部屋でも同じ。ものがいくつもあると雑多な印象になりますが、トレーに乗せるだけでまとまりが生まれます。
ところが、市販のトレーでは縁の立ち上りが低いため、対象物が丸見えで、雑多に見えてしまいます。かといって、箱になると、今度は縁が高すぎる。ボリュームが出て重く見えるし、中のものが取りづらい。それでは「しまう」を通り越して「しまい込む」になってしまう。
手に取りやすくて、それでいて中身を程よく隠してくれる、「お盆以上、箱未満」のほどよい深さを探りました。(スチレンボードや3D Print、合板などを使ってプロトタイピングを繰り返しました)
一方で、食卓のお盆やアクセサリー置きのように、高さが低い方が使いやすい場面もあります。 そこで家の中の用途を洗い出し、そのすべてをカバーできる寸法と高さを検討しました。
単行本やメガネ、ハンドクリームなどを入れながらサイズを検討し、最終的に、A4ベースとA5ベースの2サイズ、浅いと深いの2サイズ、合計4サイズ展開としました。
それは、お盆でもあり、整理トレーでもあり、ディスプレイ台でもある。つまり「四角くて平たい道具」。用途を決めないから、部屋のあちこちを行き来しながら使えます。


より少なく、より豊かに
このプロダクトの特徴のひとつが「組み合わせて使える」という柔軟性と拡張性です。
同じサイズを重ねると、重箱のように使える。
A4タイプの上にA5タイプを1枚乗せれば、半分はそのまま、半分は2段になる。
これまで様々なものを使ってきましたが、今でも手元に残っているのは、「特定の用途を持たず、工夫次第でいろんな使い方ができる」ものが多いです。暮らし方が変わったとしても、場所を変えて、用途を変えて、また活躍できるからです。
「使い方を限定しない。そして、暮らしのシーンに合わせて、組み合わせて拡張できる。」
ZA trayの柔軟性と拡張性は、結果としてものを減らし、より少なく、より豊かなライフスタイルにつながっていくと思います。

もっとも身近なアートフレーム
家の中の「四角くて平たい道具」といえば、アートフレームも無視できません。 好きでよく集めてしまう、ポストカードやリーフレットなど、紙ものを飾る道具としても成立させられないかと考えました。
試しにアクリルのボックスをつくって、トレーの中に入れてみると、これが想像以上によい。
固定金具なしで成立するよう、ファイルボックスのような形を「入れるだけ」の構造に。ボックス自体に厚みを持たせたので、紙ものをストックしながら、コラージュするように飾る道具になりました。

なりたがっている形
四角い箱という平凡な印象に、ほんの少しアクセントを加えて、このプロダクトらしさ、キャラクターを引き出したいと思いました。もちろん、重ねたときに安定することが条件です。3Dプリンタを使っていくつものパターンを検討しました。
プロダクトには、なりたがっている形があると思っています。
最終的には、用途のひとつである、アートフレームを拠り所に、縁のエンドにゆるい傾斜をつけました。
これだけで、角度によって縁の厚みが消えて見えることで軽やかさが生まれ、同時に、周囲の光を拾って陰影ができ、表情が豊かなりました。面とエッジが際立ち、緊張感が生まれ、どこか建築のような佇まいです。


鯖江との出会い
デザインがある程度固まった所で、製造パートナー、作り手さんを探しはじめます。
個人がファブレスでものづくりをする場合、ここが想定通りに進まなくて苦労する部分でもあり、思いもよらない出会いもあって楽しい部分でもあります。
知り合いの伝手を辿ったり、自分でもネットで検索し、問い合わせてみます。地道な作業です。
そんな時、鯖江のものづくりを紹介する新山さん(TSUGIの代表)の投稿が目に留まりました。 鯖江はメガネや越前漆器の産地で、伝統の技術が今も生きている土地。日本でのものづくりを大切にしたいnuffにとって、理想的な場所です。
相談してみると、快く返信をいただき、鯖江の木地師・井上徳木工さんを紹介していただきました。(写真は井上徳木工さんの工房にて。過去に制作した漆器木地がストックされていて圧巻。)


作り手と向き合う、産地と向き合う
さっそく試作を依頼。形状は比較的早く決まりました。難航したのは黒の塗装です。せっかく木でつくるのだから、木目や質感は活かしたい。ところが、そういう塗装の前例があまりないとのことで、塗りの工程での試行錯誤が続きました。
通常の方法だと、黒のウレタン塗料をスプレーガンで吹き付けるのですが、木目への入り込みが甘い箇所が出てきたり、かといって、厚く吹き付けると木目が消えてしまいます。


最終的に、黒く染める工程では粘度の低い自然オイル塗料を使い、刷毛を使って木目に刷り込むように手塗りすることに。その上からウレタン塗料でトップコートすることで、タモの木質を感じる美しい仕上がりとなりました。
良いものをつくるためには、作り手と良い関係を築くことが必要不可欠です。そのためにできることは、誠実に向き合う以外ありません。今回、職人さんに無理を言って、こちらのわがままに付き合って頂けて本当に感謝しています。木地から塗りへ、鯖江の中でバトンを渡すように、鯖江の人達に支えられて完成することができました。
最後に
現在の私の家では、至る所でこのトレーが活躍しています。
キッチンでは、毎日使うコップやポット、水筒をまとめて置く場所として。シェルフでは、アロマオイル、キャンドルの定位置として。ベッドサイドでは、読みかけの文庫と、ハンドクリームの定位置として。
おもしろいのは、ZA trayが、新しい使い道を見つけながら、家中を移動していること。私の文房具を入れていたものに、妻に取られて、今ではメイク用品の整理に使われていたり。(笑)きっとこれを読んでくれている方の暮らしにも、フィットする場面がたくさんあるのではと期待しています。